限りなく積まれた私の体
頑張ろうと思った。
いつもは頑張っていないのかと言われるとそんなことはないと思うけれど、でもやっぱり頑張ろう、頑張らねば、と思ったのだ。
死にたいけど仕事はたまっているし、頑張らなくても生きていけるほど甘くはない。何より、周りを見ると皆私よりもずっと大人に見えた。
毎日嫌なこともあるけど割りきってやらなければならないことをやり、自分のやることに責任をもっている。
それに比べて私は死にたいとばかりぼやいて、仕事も凡ミスばかりで、誰かがこの鬱屈とした日々を終わらせてくれないかと淡い期待を抱いてすらいる。
私も、いい加減大人になりたいと思った。
だからまず、仕事を頑張ろうと思った。
誰からも尊敬される程の優秀さは叶わないけれど、せめて与えられた仕事をきっちり責任を持ってやろうと思った。
頑張ろう、頑張らないと。
ぶすり、と鈍い感触がした。
私は包丁を手に持っていたが刃は目の前の何かに埋もれて殆ど見えず、足元には血だまりがあった。
顔を上げると「私」がいた。
「私」は大量に地を流しており、体には無数の刺し傷があった。
私はもう一度、頑張ろうと呟きながら「私」の体に包丁を突き立てた。何度も何度も、頑張ろうと呟いては刃を突き立てた。
弾力のある肉の表面がつぶれ、刃が沈んでいく。その感触が頭の深いところにこびりついて離れなくて、泣き叫びたいような気持ちになった。でもどこか冷静な頭で、鶏肉を細かく刻む時に似てるな、と思った。
私は、頑張るために、「私」をメッタ刺しにした。「私」は、もう頑張りたくないと涙を流していたように思う。
けれど、頭はいつもよりも心なしかクリアになり、仕事も捗った。
明日も頑張ろう。
頭の中の、深い、わずかな光も届かない程に深いところでは、「私」の死体が山積みになっている。